政治姿勢と進化心理学

ナショナルジオグラフィックの記事の反応を読んで思っていたのだが、生物学的な進化を信じている人も、「心が遺伝する」、「心は進化の産物」という考えには抵抗があるみたい。ジェイ・グールド的な進化観なのね。
でも進化心理学とか行動遺伝学とか呼ばれる分野では、幼い時に引き離されて別々に育てられた双生児の形質を統計的に比較することで、「心の遺伝」について色々な知見を得ている。
スティーブン・ピンカーの「人間の本性を考える」には、下記のような記事がある*1

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

ギルバートとオサリバンが1882年にほぼ正しく理解していたように、リベラルと保守の政治姿勢は、完全にとはとても言えないが、おおむね遺伝的である。生まれてすぐに別々にされた一卵性双生児を成人後に調査した研究によれば、一卵性双生児の政治姿勢は、相関係数0.62と類似している(相関係数は-1から+1 ※2)。もちろんリベラルか保守かという政治姿勢が遺伝的なのは、政治姿勢がDNAから直接につくられるからではなく、リベラルになりやすい人と保守になりやすい人の気質がちがうからである。たとえば保守派はリベラル派と比べて、権威主義的で、誠実で、伝統的で、規則にしばられる傾向がある。しかし直接の出所がどこかにかかわりなく、政治姿勢が遺伝性だという事実から、リベラル派と保守派が出会うとなぜそんない火花が飛ぶのか、その理由の一端がわかる。こと遺伝性の姿勢に関しては、人は即座に情動的な反応をし、気持ちが変わりにくく、同じ意見の人たちにひかれやすいのである。

本文中の※2は注釈で「D.Lykken, 私信(2001年4月11日)。他の算定では、保守的姿勢の遺伝率は一般に0.4から0.5の範囲とされている」とあり他五つの研究が引用されている。

0.62 とか 0.4 とか 0.5 の相関係数が、どの程度の意味を持つかは安藤寿康著「心はどのように遺伝するか」に説明がある。

心はどのように遺伝するか―双生児が語る新しい遺伝観 (ブルーバックス)

心はどのように遺伝するか―双生児が語る新しい遺伝観 (ブルーバックス)

表2-2 身体的・心理的形質の遺伝率と、共有環境と非共有環境の影響 (p.89)
 遺伝率共有環境非共有環境
指紋隆線数0.920.030.05
身長0.660.240.10
体重0.740.060.20
知能0.520.340.14
宗教性0.100.620.28
学業成績0.380.310.31
創造性*20.220.390.39
外向性0.490.020.49
職業興味0.480.010.51
神経質0.410.070.52

「遺伝率」は遺伝による影響で、「共有環境」は環境による影響、「非共有環境」は遺伝でも環境でもない要因による影響。
身体的形質は遺伝の影響が多く、心理的形質は種類によって影響を影響を受けるものが異なっている。この表だと宗教性は遺伝よりも環境の影響が大きい(まあどういう宗教を信じるかは親の影響が大きいよね)。

ピンカー本が正しく政治姿勢は遺伝的影響が大きいのだとすると、元のナショナルジオグラフィックの記事のようにリベラル志向が進化の結果だとしても不思議ではないわな。

*1:この記事を探すために三冊に分かれた「人間の本性を考える」を全部読むはめに陥る。早く電子ブックよ普及せよ。

*2:ボタンを普通の使い方以外に、別のユニークな使い方ができるか、というようなテストで測れている